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東京高等裁判所 昭和50年(う)542号 判決

本店所在地

東京都台東区柳橋二丁目四番一号

内田オウナー株式会社

右代表者代表取締役

内田渙一郎

本籍

東京都台東区蔵前三丁目一〇番地三

住居

同都文京区大塚二ノ四ノ八ノ一、二〇三

会社役員

内田渙一郎

大正一一年四月一〇日生

右内田オウナー株式会社に対する法人税法違反、内田渙一郎に対する所得税法違反、法人税法違反被告事件について、昭和四六年一〇月三〇日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人会社および被告人内田から適法な控訴の申立があり、ついで同四九年三月八日東京高等裁判所のなした判決の有罪部分に対し東京高等検察庁検事長から上告の申立がなされたところ、最高裁判所は同五〇年二月二〇日有罪部分を破棄して原審に差し戻す旨の判決をした。そこで、当裁判所は、検察官粟田昭雄出席のうえさらに審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

原判決中被告人内田渙一郎に関する部分を破棄する。

被告人内田渙一郎を、懲役三月および罰金三〇〇万円に処する。

被告人内田渙一郎において、右罰金を完納することができないときは、三万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人内田渙一郎に対し、この裁判の確定した日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

被告人内田オウナー株式会社の本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人出射義夫作成の控訴趣意書および検察官の答弁書に対する意見書(控訴趣意補充書)記載のとおりであり、検察官の答弁は、検察官中野博士作成名儀の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用するが、控訴趣意第一点事実誤認の論旨については、これにかかる被告人内田渙一郎に対する昭和四六年三月八日付起訴状第一の一の公訴事実(昭和四二年分の所得税逋脱の公訴事実)につき、差し戻し前の当審裁判所が昭和四九年三月八日言い渡した無罪の判決が確定していることは記録上明らかであり、右論旨に対する判断は許されないところであるから、これを除くその余の論旨(量刑不当)につき次のとおり判断する。

所論に徴し、記録を精査して検討するに、本件は、原判示第一の二、第二のとおり、金属洋装雑貨の製造販売等を営んでいた被告人内田渙一郎(以下被告人内田という)が自己の所得税を免れようと企て、売上の一部除外および架空仕入を計上して架空名義の定期預金を設定するなどの不正の方法により所得を秘匿し、昭和四三年分の所得税一、〇九七万八、〇〇〇円を逋脱し、また、金属洋装雑貨の製造販売等を目的とする被告人内田オウナー株式会社(以下被告会社という)の代表取締役として被告会社の業務全般を統括していた被告人内田において、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空経費を計上したり、期末たな卸商品の一部を除外するなどの不正の方法により所得を秘匿したりして、昭和四四年分の被告会社の法人税四五七万六、三〇〇円を逋脱した事案であつて、本件各逋脱の態様、罪質、逋脱税額等を総合すると被告会社並びに被告人内田の刑責は必ずしも軽くなく、被告会社においては、本件犯行後、昭和四四年度分の国税、地方税の各本税、延滞税、重加算税を完納していることなど所論指摘の被告会社にとつて有利な情状を十分考慮しても、被告会社を罰金一〇〇万円に処した原判決の量刑が重きに過ぎ不当であるとは認められない。しかしながら、被告人内田については、所論指摘の逋脱にかかる本件所得税の国税、地方税の本税、延滞税、重加算税を完納していることなどの有利な事情に加えて、原判決が被告人内田に対する量刑処断の前提として、その罪となるべき事実第一の一で有罪を認定した昭和四六年三月八日付起訴状第一の一の公訴事実(昭和四二年分の所得税逋脱の公訴事実)については、本件差し戻し前の当審裁判所において無罪の判決が言い渡されて確定していることが記録上明らかであり、したがつて、被告人内田個人の所得税の逋脱の昭和四三年分に限られることを併せ考えると、原判決中の被告人内田に対する量刑はその懲役刑の刑期ならびに罰金額において重きに過ぎ不当であるといわなければならない。

よつて、被告会社の本件控訴は理由がないから刑訴法三九六条に則りこれを棄却し、被告人内田の本件控訴は理由があるので刑訴法三九七条一項、三八一条を適用して、原判決中、被告人内田に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書により、被告人内田に対する昭和四六年三月八日付起訴状第一の一の公訴事実を除くその余の被告事件につき、さらに判決する。

原判決が適法に確定した原判示第一の二、第二の各事実に原判決と同一の法令を適用処断した(但し、懲役刑に関する併合罪加重については原判示第一の二の罪の刑に加重)刑期ならびに罰金額の範囲内で、被告人内田を懲役三月および罰金三〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときの換刑処分につき刑法一八条一項、懲役刑の執行猶予につき同法二五条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 東徹 裁判官 長久保武 裁判官 中野久利)

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